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Archive Warning:
Category:
Fandom:
Relationships:
Characters:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2025-05-27
Words:
9,948
Chapters:
1/1
Kudos:
11
Hits:
216

君と僕は相性が悪い

Summary:

ほんのり真面目に始まる夜鷹視点どたばた。

Notes:

夜鷹が過去に男女と経験あります(同意あり、ほぼ未遂、そこまで描写なし)
迷ったのですが、地の文の主語を夜鷹/明浦路/鴗鳥にしています。
2ページは没案などです。

Work Text:

 腹のなかでぐつぐつ燃え滾る熱がある。何も考えられない。息ができない。体は熱く重く手は思い通りに動かない。
 息ができるのはただ、冷たい氷の上だけ。
 肌に当たる冷えた風だけが熱を冷やし、夜鷹を覚醒させる。
 熱は嫌い。

  *

 真夜中のスケートリンクにふたたび明浦路が来た。以前から夜鷹と明浦路は決して友好的とは言えないやりとりを何度か交わしていたが、それでも鴗鳥に誘われて来たらしい。
 今回はほとんど明浦路と話すこともなく、貸し切りの時間が終わって、鴗鳥が二人を送っていく途中のことだった。
 車内で触れ合った、太陽みたいな男の体は熱い。
 それがどうしてか心地良かった。
 いつの間にか体が冷えきっていたのだろうか。しかし夜鷹は今までスケートリンクにいて、そんなことを感じたことはなかった。
 氷上はいつでも冷たくて、それが良かった。
 これまで熱がいいと思うなんてことは一度も起こらなかった。


 夜鷹は引退してから、食事と同様、人と付き合うこととセックスを試してみた時期がある。
 現役時代は人を避けてきた。
 そもそも人付き合いよりスケートを優先させれば自然と近づく人は減る。
 スケート関連の付き合いを除いて、それでも夜鷹に近づいてくる人は、好意であれ悪意であれ、トラブルを起こしがちで、現役時代は意図して人付き合いを避けてきた。
 引退して余裕ができた時間のなかで、夜鷹は当初、近づいてくる人々を避けなかった。しかし避けなかったところで、生じた付き合いが長く続くことはなく、夜鷹の周りに人が増えることはなかった。

 まず人は誘った相手が食事をしないことに耐えがたく感じる。夜鷹が無言のままでいることにも耐えられないし、逆に夜鷹のなんということのない言葉に腹を立てることも多い。
 『恋人』という立場を求める場合には、なおそうだった。
 これまでコーチも同世代の選手たちも、夜鷹が選手として必要な食事を取って、必要な会話をしている限りは、それ以上に干渉してこなかった。それが『恋人』となると違う。
 長い間、氷上のみで集中するために削ぎ落としてきた選択でもあるが、もはやそれらは夜鷹の日常となっており、変えられるものではなかった。
 そういうわけで、夜鷹に近づく多くの人は、一度か二度、デートに付き合っただけで去って行く。だいたいの人は無言で去る。稀にどこが嫌なのかを指摘する人がいて、それで夜鷹は『人はデートに誘った相手がまったく食事をしないことに耐えられない』というようなことを何度か経験した。
 徹底した食事制限を止めようと思っていたので、少しは食事に付き合うこともあったが、そもそも誰かと食事をとるのは煩わしく、食事そのものが嫌いなので長くは続かなかった。


 それから引退してからしばらくしたあと、夜鷹の顔がそれほど知られなくなった頃、ときどき街中で出会った人に誘われた。
 これらの人が夜鷹に求めているのは、食事でも会話でもなかった。食事や会話が付随することもあったが、夜鷹がそれらに興味を示さないでいるとセックスに誘われた。
 ホテルで肌を合わせたが、セックスもあまりいいと思えなかった。性的な快楽は嫌いではないが相手の肌の熱に慣れなかったからだ。
 相手が女性でも男性でも、触れ合うことで熱が増す。それは氷上を離れることを意識させて戒めとしてはよかったが、夜鷹が途中で萎えてしまう。セックスは食事などよりはるかに、夜鷹自身の生活に他人が侵襲してくる行為だ。一度、熱が煩わしく思うと相手が勃たせようとしてくるのも嫌で触られるのを断る。それで終わる。
 相手が夜鷹に入れる場合は、もう少し長く、相手が射精するまでは続くこともある。しかし夜鷹はアナルセックスに慣れているわけでもないため不快で、やはり途中で止めさせたこともある。
 セックスをしても夜鷹の肌は冷たいままだと言われたこともあった。不感症だとも言われた。
 性的不能ではないので性器を弄られると反応して少しだけ体温が上がるが、終わると肌はすぐに冷たくなってしまう。相手の肌にまだ熱が残り息が整わないうちに、夜鷹の肌はすぐに熱が引いてしまう。息もほとんど乱れない。そのことに夜鷹は心の奥の方で安堵し、一方で、氷の外の煩わしさを思う。
 それで夜鷹にセックスを求める人も大抵は一度だけで去っていった。


 それが初めて相手の体の熱を心地いいと思った。
 かつての全日本でリフトを失敗したにも関わらず、この男のことを覚えていた。そのことが関係しているのかどうか分からない。
 いつの間にか、夜鷹は車内で明浦路のあたたかい体と触れ合っていた。触れていても気にならなかった。
 ちらりと顔を見やると、明浦路は正面を向いて体を強張らせ首筋まで火照らせていた。車のなかとはいえ、冬なのに汗までにじませている。
 こういう反応は何度も見てきた。夜鷹のファンという人たちのなかにもいた。これは明浦路が自分を欲望の対象として意識しているということなのだろうかと思う。
 ただ、夜鷹の大ファンだという明浦路が、これまでのやりとりを考えるに、性欲なり恋愛なり、欲望を持つタイプのファンだとは思っていなかった。もし持っているのであれば、この熱が心地いいかどうか試してみたい。
 最寄り駅まで着いて明浦路が車を出たところで、夜鷹も外に出て、声を掛けて引き留めた。
「夜鷹さん?」
 夜鷹は耳に口を寄せて囁いた。
「僕の部屋に来る?」
 その言葉は驚くほどの反応を引き起こした。
 明浦路は目を見開いて夜鷹を見つめたまま、真っ赤に顔を火照らせた。それから、この位置からは見えないであろう、運転席の方向をばっと見て青くなる。明浦路はまた夜鷹を見て赤くなり、口を開いたが、あ、とも、え、ともつかない声を出しただけだった。
 見当違いだっただろうかと思いつつ、運転席の鴗鳥に紙とペンをもらって自分の住所を書きつけ明浦路に渡した。
「来るなら今日中に来て」
 そう言ってまた車内に戻った。明浦路は紙を持ったまま立ち尽くしている。
「……純くん?」
 鴗鳥は何か言いたそうだったが何も言わなかった。
「車出して」
 鴗鳥は立ち尽くす明浦路にちらりと目をやって、それから車を発進させた。


 夜鷹は明浦路が来るかどうか疑わしく思っていたが、果たして日付が変わりそうな頃、明浦路は夜鷹の部屋に来た。
「……」
「うわ……っ、こんな、や、夜分にすみません」
 インターホン越しにすでに会話しているのに、夜鷹が扉を開けると明浦路は驚き慌てた素振りを見せた。
「入って」
 そのまま帰ってしまいそうだと思ったが、明浦路は夜鷹の部屋に入ってきた。座って、とリビングのソファを指差すと大人しく座った。夜鷹はその隣に腰掛けた。
「あ、あの、どうして夜鷹さんは……、俺を部屋に……?」
 そこからかと夜鷹は思い、明浦路を見つめた。見つめるだけで、その顔の赤みが増していく。夏の日差しみたいな、澄んだ色をした瞳の瞳孔が広がっていくのが分かる。
「どうしてだと思う?」
「い、いや、分かりません」
「……分からないのに僕の部屋に来たの?」
 顔を覗き込むように身を寄せると、ぶわっと赤みが増し、体温がさらに上がったように思う。明浦路はいっとき息を止めた。
 これまで夜鷹は自分からセックスに誘ったことがなかったので、どうしたらいいか分からなかった。どういう相手であれ、二人きりになれば相手から手を出してきていたからだ。これまで相手が何をしたか何を言われたのかまったく覚えていない。それで夜鷹は直接訊ねた。
「ねえ、君は僕とセックスできる?」
 明浦路は突然わっと叫んだ。
「?! ち、違うんです、俺は……! ごめんなさい、あなたのことをそんな目で見ていた、わけじゃ、いや、うそです、見て……、見てない、です、いや、見ました、で、でも、あ、あれは、あれは、そうじゃないんです、違、あれは何かの間違いで……! 違うんです……! 俺もさっきまで忘れていて……」
 赤くなったり青くなったりした明浦路は支離滅裂に話し続けていたが、はたと止まった。
「――え? で、できる……? できるってなんですか……?」
 何を言っているのか分からない。夜鷹は早々に諦めることにした。
「帰っていいよ」
「え?!」
 夜鷹がソファから立ち上がると、明浦路は慌てて立ち上がって夜鷹の腕を掴んだ。掴むというより、こわごわ触れると言った方が近い。
「で、できます」
 そうは言うものの、夜鷹がその腕に触れて身を寄せるとわっと声にならない声で叫んだ。
「無理しなくていいよ」
 そう言って離れようとすると、今度はしっかりと引き留められた。いい加減、どちらかにしてほしい。
 夜鷹が肩に腕を回して顔を近づけると、明浦路は夜鷹を見つめたまま顔を火照らせた。
 唇に触れるだけのキスをして離れると、明浦路は先ほどとは打って変わって黙ったまま目もとを潤ませてぼんやりと離れていく夜鷹の唇を見つめていた。泣きそうだと思った。泣いているのかもしれない。夜鷹の腕に触れる体がますます熱を上げている。おそるおそる夜鷹の腰に明浦路の手が触れる。潤んだ目が熱く夜鷹の唇を見つめている。
「キスしていいですか……?」
 夜鷹は質問の意図が分からず、眉を寄せた。
「たった今、キスしたのに、どうして許可が必要なの」
 うう、と明浦路は唸った。先に進まないのに焦れて夜鷹は言った。
「するなら早くして」
 は、と明浦路が息を吐き、それからずいぶん躊躇ったあと、夜鷹の唇に触れるだけのキスをした。夜鷹は離れようとする唇を追いかけて口づけた。震える唇に何度か口づけを繰り返し、甘く噛んで舐めた。
「う……っ」
 何か言おうとしたのか開かれた唇に舌を入れて口づけを深くする。明浦路の体温の高い唇を堪能する。明浦路は口腔を探られて喘ぎ、引き攣れた息を吐く。泣いているだろうかと思って顔が見たくなり唇を離すと、一瞬、燃え立つ濡れた瞳と目が合った。
 いつもの、初夏の陽光みたいな澄んだまっすぐな目とは違う気がした。潤んで赤くなって耀いていた。
 次の瞬間、熱い手に腰と後頭部を引き寄せられて口づけられていた。唇が熱い、入り込んできた舌が熱い。夜鷹の唇を、口腔の内側を、舌を、息を貪られる。引退して喫煙をしてもまったく肺活量は衰えていなかったのに、息を吸うことを忘れて肺がわななく。掴まれた手の力が強くなって腰が擦りつけられ、いやおうなしに押しつけられたそこが硬くなっているのが分かる。自分のものも硬くなっていて、きっとその興奮は相手にも伝わっているに違いないと夜鷹は思った。他人に触れて、こんなに興奮したのは初めてだった。肌に触れたいと思ったのも初めてだ。夜鷹はTシャツの裾をたくし上げて、自分の唇を貪る男の素肌に触れた。
「……っ!」
 口づけに夢中になっていた明浦路がはっとしていきなり体を離した。そうして口を開くが言葉は出てこない。夜鷹に見つめられた明浦路が汗ばみ、また顔を火照らせていく。
「なに?」
 夜鷹は明浦路を見つめた。今度はなんだというのか。熱っぽくキスしたけれど、やっぱりセックスとなると抵抗があるのか。ジーンズ越しに分かるくらい勃たせているとはいえ。
「す、すみません、俺、夢中で……! いや、そ、その……、あの……」
「……君はいつもこんなことやってるの?」
「そんなことないです! こんな、いや、こんなに、余裕なくなるなんて……、そんなことないです……!」
 明浦路は先ほどとは違う意味で涙目になって弁解し始めた。
 夜鷹としては何度も中断するようなまだるっこしいことをしているのかという意味だったが、明浦路は逆の意味に解釈した。もう帰っていいよと言いたい。
「そんなこと聞いてないよ。したくないなら……」
「したいです! ただ、シャワーも、浴びてないのに……、い、いや、夜鷹さん、が先に進みたい、なら……ですけど……」
「別に気にしない」
 俺は気にするんです!と明浦路は必死に叫んだ。
「浴室はそこ。僕はさっき浴びた」
 浴びてきたらと言うと、明浦路は何か言いたげだったが浴室に向かった。
 つくづく変な男だと思う。どうせ汚くなるのに。これまでセックスしてきた相手は大抵気にしないか、気にする人は夜鷹も一緒にシャワーを浴びることを求めた。
 待つ間、手持ちぶさたに煙草を吸おうかどうか迷いながら、寝室に入ると、なんだか寝てもいいかという気分になってベッドに横たわって目を閉じた。
 しかしいくらも経たないうちに明浦路が現れた。
「夜鷹さん……、もう寝てます……?」
「起きてる」
 目を開けると、明浦路がシャワーを浴びる前と同じ服を着て、タオルを肩に掛けて立っていた。髪からぽたぽた水を垂らしている。夜鷹はベッドから身を起こして明浦路の胸もとを掴んで引っ張った。
「どうせ脱ぐのになんで服を着てるの?」
「いや……、さすがに……、何も身につけない、のは……、あとタオルを勝手に借りてしまって……」
「脱いで」
 そう言って夜鷹も自分の服をすべて脱いで明浦路を見ると、Tシャツを頭から抜いたところで腕から抜かないまま、ぼーっと夜鷹を見つめていた。
「脱がないの?」
 着衣のままを好む人もいることくらいは知っている。そういうタイプには見えなかったと思っていると、明浦路は慌てて、焦るあまりもたもたとしながら服を脱ぎ始めた。また耳まで顔が真っ赤になっている。その赤みはすぐに広がり、スケートをやるにしては鍛えすぎているように思われる、豊かに盛り上がる胸もとまで赤みを帯びていく。
「よ、夜鷹さん……」
 ベッドの上で起き上がった夜鷹のもとに明浦路が近づくと、濡れたままの髪から肌に水滴が垂れ落ちる。
「冷たい」
「うわ、す、すみません! ふ、拭きます」
「しなくていいよ」
 ベッドから離れようとする明浦路の肩を掴んで、逆にベッドに押し倒して腰の上に跨がった。下になれば水滴が落ちてくることもない。
 明浦路はまだ下着を脱いでいなかった。使い古された下着は少し色褪せてよれよれで、水に濡れて色が変わっている。先ほどまで硬くなっていた股間は、シャワーを浴びたせいか、すっかり萎えていた。
「よ、夜鷹さん……? あ、あの……、俺……」
 押し倒された明浦路がベッドの上で上半身を起こした。キスがしやすくなったので夜鷹は頭に手を回してキスをした。
 明浦路はまたキスに没頭する。上顎をそっと舌で撫でられると息が乱れるということはさっき知られた。舌と舌をゆっくり擦り合わせるのもそうだということも知られてしまう。夜鷹は腰を揺らして股間を押しつけあった。途端に明浦路の息が乱れる。夜鷹は明浦路の下着をずらして性器と性器をくっつけた。
「……っ!」
 明浦路は声にならない悲鳴をあげた。夜鷹の腰に置かれた手のひらが震え、どっと汗ばむ。
 明浦路のペニスはやや硬くなったがまだ柔らかい。それでもかなりの大きさがある。これを入れるのはないなと夜鷹は思い、二人分の性器をまとめて扱いた。
「ひえ……っ」
 明浦路はだらだら汗をかいていた。首筋にまで広がった赤みが色を増す。珍しく夜鷹は快感を得ていたが、いつまで経っても明浦路の性器はそれほど硬くならない。半勃ちのくせに大きくて、夜鷹の手にずっしりと重たくのし掛かるが、なかなか硬くならない。夜鷹は頭を上げて明浦路の唇を求めて唇の端に触れたが、明浦路は固まったまま返さなかった。手も止まったままだ。
「ねえ」
「は、はい?!」
 明浦路が裏返った声を出す。夜鷹は半目で睨んだ。
「全部僕にさせるつもり?」
 わ……、とかなんとか声にならない悲鳴が上がったあと、いえ!と明浦路は叫んだ。
「そ、そんなことないですよ……っ」
 さ、触りますね……と掠れた声が言って、明浦路の熱い手が二人の性器におそるおそる触れ、それから扱き始めた。こわごわと触れる触れ方がもどかしく、夜鷹は腰を揺らすと明浦路は硬く唾を飲み込む。夜鷹は手を重ねて動きを促した。
 体温の高い手のひらが気持ちいい。
 誰かの手と体熱を気持ちいいと思ったのは初めてだった。
 夜鷹は頭を、高い体熱を発する胸にもたれかけて、じりじり焦げつくような快楽に集中した。明浦路の熱い手のひらが濡れているのは、汗ばんでいるからなのか、カウパー液のせいなのか分からない。次第に手つきはしっかりとしたものになり、にちゃ、とかすかに湿った音が立つ。
「ん……っ」
 夜鷹は熱さに煽られるようにして初めて人の手で登りつめた。しばらく荒い息のまま、明浦路の胸に頭をもたれかけたまま息を吐いていたが、そのうち相手がまだ射精していないことに気づいた。明浦路のペニスは完全に勃起しているわけではないが、先ほどより確実に質量を増して硬くなり、赤く勃起して先走りに濡れている。
 見上げると、明浦路は顔を上気させて、ぼうっと夜鷹を見ていた。また目が潤んで目もとが赤くなって、まるで泣いているように見える。
「夜鷹さん……っ」
 明浦路が熱に浮かされたように口づけてくる。
 夜鷹はしばらく明浦路のペニスを扱いた。明浦路の息が荒くなる。男の体はますます熱さを増し、夜鷹の手のなかの肉茎は硬くなったが達しなかった。
 これまでの経験では、夜鷹が相手を扱いて終わるか、相手が能動的に動いて終わっていたと思う。どうして明浦路がそうならないのかよく分からない。
 この男は挿入に拘っているのだろうかと夜鷹は思った。異性愛者は挿入に拘る傾向があるらしい。この男の慣れない様子を見るに、バイセクシュアルにしてもヘテロセクシュアル寄りなのかもしれない。夜鷹は手を離して明浦路の顔を見て言った。
「入れたい? それとも入れてもらいたいの?」
 とは言ったものの、明浦路のペニスはあまり入れてみたいと思えない大きさだった。
「――え?」
 ぼんやりとしていた明浦路の瞳が急に焦点を合わせて夜鷹を見つめて動揺し始めた。
「い、いれる……? ど……、どこにっ?!」
「アナルセックス知らないの?」
 なぜかぎゃっと明浦路は叫んで、し、知ってますけど!と慌てた。
「それで?」
「『それで』……?」
 夜鷹は重ねて訊いた。
「したいの? したくないの?」
 ううう……、と明浦路は手で顔を覆って唸り始めた。
 夜鷹には何をそんなに悩んでいるのかさっぱり理解できなかった。変わってるなとまた思う。したいのかしたくないのか分からない。
 しばらくして明浦路は蚊の鳴くような声で、入れたいです……、と答えた。目に涙が滲んでいる。泣くほど嫌なら断ればいいのにと夜鷹は思う。
「そう」
 よく分からなかったが、しかし『入れたい』と言ったのは確かだ。夜鷹はシーツの上にうつぶせになって寝転んだ。振り向くと火照った顔の明浦路と目が合う。
「その、あの、準備が必要ですよね……?」
 言いながら明浦路はまた赤くなり汗ばんでいく。
「さっき洗った」
 あらっ……、と言って明浦路は固まってしまった。
「君の大きいから気をつけて」
「……、……はい」
 ジェルとコンドームは……と言われて、夜鷹はベッド脇を指差した。明浦路は派手にベッド脇のテーブルに置かれたものを落としたあとで言った。
「さ……、さわりますね」
 最初はおそるおそる触れる手がくすぐったいだけだった。すぐに穴に触れるかと思っていたが、ジェルのついた手で、やたら尻を揉む。手つきは徐々に大胆になっていく。しきりに首の後ろや背中に口づけられるのがくすぐったい。
 熱い息が夜鷹さん、と呼ぶ。
 ようやく穴に指が触れたあとも、すぐには入れてこなかった。穴の縁を撫で揉み、指の腹でゆっくり穴を広げる。それを何度も繰り返したあとジェルにぬめる熱い指が入ってきた。以前、入れられたときより不快感は薄い。
 明浦路は夜鷹の体を引き寄せて膝の上に乗せるように腰を持ち上げた。萎えていた夜鷹のペニスを片手で扱きながら、もう片方の手で尻の穴を弄り、指を抜き差させる。気持ちいいのか気持ち悪いのかよく分からなくなっていく。背筋がぞくぞくして不随意に体が動いてしまう。指が増やされて、もう十分だろうと思った頃、明浦路が言った。
「仰向けになってもらってもいいですか……?」
 言われるままに動こうとすると、ずいぶん体が重くなっていることに気づく。ただ少し体を触られただけなのに、頭はどこかぼんやりとして息が整わない。まるで練習で長く緊張に張り詰めていたときのように重くなった足を起こしてベッドの上で仰向けになって明浦路を見ると、その顔はのぼせたように赤く火照っていた。まだ入れてもいないのにその明るい色の髪まで汗に濡れている。
「……キスしていいですか」
 またそんなことを言う。
「いちいち訊かなくていいよ」
 先ほどと違って、明浦路はすぐに夜鷹に覆いかぶさって口づけてきた。キスに躊躇いはなくなったらしい。貪るように口づけられる。
 ペニスを入れられるかと思いきや、また指が入ってくる。夜鷹は顔を逸らして明浦路の唇から逃れて言った。
「もう入れないの?」
「……無理、です」
 しばらく明浦路は穴から指を抜いて躊躇ったあとにそう言うので夜鷹は身を起こして明浦路を見つめた。
「入れたくないなら」
 い、入れたいですよ!と食い気味に明浦路は言って、でも、と続けた。
「無理、ですよ、入らないです……」
 お尻だって小さいしこんなに狭いのに……、と明浦路はぼそぼそと言う。
 夜鷹の過去の経験からすると不快だったのは確かだが、入ることは入った。
「入れてみたら?」
「いや、無理です。入れたいですけど……、せめてもう少し慣らしてからにしましょう」
 今日は入れなくても……、と言うので夜鷹はむっとした。何のためにここに来たのと詰りたかった。
「試してみないと分からないよね」
 明浦路は頑固にブンブン首を振った。
「無理ですって! 切れたらどうするんですか!」
 夜鷹は明浦路を睨みつけ、股間に手を伸ばして、まだ一度も出していない勃ち上がったままのペニスに触れた。う……っと明浦路は呻く。夜鷹が扱き始めると明浦路は、あ、あ、と上擦った喘ぎ声を漏らした。
「ち、ちょっとまってくださ……っ、あっ」
「……入れたいんじゃないの?」
「入れたら傷ついちゃいますって……!」
 夜鷹の手のなかで、これ以上ないほど熱くなったペニスがピクピク震える。夜鷹が手を緩めると、ううう……、と明浦路は身をかがめて唸った。
「君の指だって細くない。さっきだいぶ僕の穴、広がってたよね。入れて」
「――でも」
 ぽたりと熱いものが落ちてきて、見上げると明浦路は顔を真っ赤にさせてぼろぼろ涙を流していた。
「俺はあなたを傷つけるのがどうしても嫌なんです」
 夜鷹はため息を吐いた。
「……」
「ごめんなさい……、でもあなたにも気持ちよくなってほしいんです……」
 十分気持ちいいから入れてみなよと夜鷹は思ったが、堂々巡りのやりとりに飽きていたので何も言わなかった。
「……指、入れていいですか」
「それも訊かなくていいよ」
 これも何度目のやりとりだろうと夜鷹は思った。明浦路はちゅっと唇にキスをすると夜鷹のなかに指を入れた。腹側を探られると、じっとしていられないような気分になる。夜鷹の穴は確かに広がっていた。三本まとめて抜き差しされて夜鷹は体を強張らせた。腹の底から何かが駆けのぼってくる。一方的にイかされるばかりなのはなんとなく嫌だった。
「ねえ」
 夜鷹は目の前の厚い胸を叩くと、明浦路は手を止めた。
「扱いてあげるから、僕に入れてることを想像しながらイってよ」
 ひゅ、と明浦路は息を飲み、はい、と掠れた声が答えた。
「よ、夜鷹さん……っ」
 先ほど達しそうになっていたペニスは夜鷹が扱くとあっという間に限界を迎えた。夜鷹の広げられた脚の間で、明浦路は眉を寄せて、唇を開いてはぁはぁ荒い息を吐く。滲む汗が、赤く火照る首筋から鍛えられて盛りあがる胸もとまで垂れ、顔や髪から流れ落ちた滴が夜鷹の肌に滴り落ちていく。
 明浦路は耐えるように夜鷹の両脇についた手を握り込んでいた。時折、堪え切れないように腰が動いて夜鷹の手に熱くなった肉茎が強く押しつけられる。夜鷹はジェルに濡れた両手でペニスを扱きあげた。
「あ、あ……っ、よ、よだ、かさ……っ、も……、おれ……っ」
 明浦路は突っ伏して夜鷹の首筋に顔を埋めると、夜鷹の手を握り込むと乱雑な仕草でペニスを扱いて達した。しばらく明浦路はそのままの姿勢で荒い息を吐いていたが、突然ハッと身を起こして、慌ててベッドサイドに置いたままのタオルを掴んで夜鷹の肌を拭き始めた。
「す、すみません……っ、俺の、か、かかって……っ」
 明浦路は肌についた精液を拭いていたが、また動きを止めて夜鷹を見つめた。瞳孔が開いている。
「なに」
 あの……、と明浦路はタオルを放り出して夜鷹の太ももに触れて言った。
「な、舐めていいですか?」
「必要ないよ」
 夜鷹のペニスは少しだけ硬くなっていたが、特に気にならない程度だ。
「俺が、したいんです」
 熱い手のひらが太ももをそろそろ撫でながら、期待と決意に満ちた目が答えを待ち続ける。いいと言うまで待ち続けるつもりなんだろうかと思いながら、夜鷹はいいよとうなずいた。
 夜鷹は性的に淡白な方だし、他人とのセックスでこれまで感じたことがなかったし、ましてや一晩に二度出したいと思ったことがない。
 それが明浦路の熱い手で扱かれて舌と口を使って丁寧に愛撫されて、夜鷹はまた達したくなっていた。性器を扱く手とは別の手がずっと尻穴の縁を指の腹で揉んでいて、いやおうなしに、そこが過敏になっていくのが分かる。
 穴の縁を弄っていた指がずるりと中に入ってきて、夜鷹はあっと小さく声を漏らしていた。明浦路はすぐさま動きを止めた。
「痛かったですか……?」
 夜鷹は首を振った。
「痛くないから続けて」
 明浦路は性器を手で愛撫しつつ、夜鷹の顔を見ながら指を増やしていった。先ほどより早く指を増やされて抜き差しされ、夜鷹ははっきりとそこで感じ始めていた。腹側の浅い位置を優しく撫でられると、不随意にぴくぴく震えて明浦路の熱い指を締めつけてしまう。
「ん……っ」
 そこにまた熱い舌にペニスが包まれて夜鷹は喘いだ。
「くち、離して、いくから」
 もごもごとペニスを咥えながら明浦路が何か言っている。頭を引き離そうとしたが、がっちりと腕に腰を抱き込まれて離すことができない。
「……っ」
 指を三本、遠慮なく抜き差しされて夜鷹は内心悪態を吐きながら明浦路の口に遂情した。どっと疲労感が押し寄せる。こんなふうに遠慮なく指を突っ込むなら性器を入れても大して変わりがないのでは……、と思うと、傷つけたくないという理由で挿入を拒んだ明浦路に苛立ってくる。
 目を開けて身を起こすと、妙に緩んだ顔の明浦路と目が合った。その下半身はまた半ば勃起していた。
「……どうするの、それ」
 明浦路は顔を赤くして慌てて下半身を手で隠した。もちろん隠し切れていない。
「え?! いや、あの、見ないでください、だ、大丈夫なんで。すぐ収まります」
 入れたら?と言うと、明浦路はダメですよ!と叫んだ。
「どうして?」
「……コンドームもサイズが合わないんです」
 ちょっとずつ慣らしていきましょうと明浦路は言った。
「さっきみたいに。指で慣らしながら前も刺激したら、感じるようになると思うんです」
 はにかむように微笑む明浦路に苛立った夜鷹はベッドサイドのスマートフォンを壁に投げ捨てようとした。それを止めようとした明浦路は漫画みたいにベッドから派手な音を立てて転がり落ちた。
「い、った!!! な、何するんですか!?」
 怪我はなさそうだった。次回、と夜鷹は、床の上の明浦路を見下ろしながら言った。
「え?」
「次回入れて」
「え? いや、入れてって言われても……、大丈夫かどうか確かめないと……? えっ、次回……?」
 また顔を火照らせて何か言い始めた明浦路に夜鷹はため息を吐いた。


   了